人には多かれ少なかれ、弱みや苦手なものを持っているものだ。どんなに屈強な人間でも、一つや二つの弱点はあるだろう。
 かくゆう私なども、弱点だらけだ。泳ぎが得意ではない事は先に書いてあるが、他にも昆虫が苦手だったり、数字に弱かったりする。
 高校生のころ学校には自転車で通っていたのだが、いつも通っていた道が『見渡す限りの田んぼ』を突っ切っている一本道だった。夏も過ぎれば稲穂の頭もたれ、残暑に夏のなごりを感じつつ実りの秋へと移っていく季節に、私の大嫌いなイナゴが大量発生する。道路一面とまではさすがに言わないが、それでもゴマ塩ふりかけを均等に敷き詰めた時のゴマの数ぐらいは道路の上にいるし、飛行中のイナゴも同程度いる。ハルマゲドンでは地獄から大量の人面イナゴが飛来し甚大な被害を及ぼすらしいが、私にとってはすでにハルマゲシーズン到来だ。いつもは三十分かける通学も、その時ばかりは十分で学校に到着していた。
 数字に弱いというのは単に計算が苦手なこともあるが、数字には私の眠気を誘う催眠効果が付加しているとしか思えない。あと数字を覚えるのも不得意で、電話番号などは自分の家と携帯・実家・地元の友達の家・凡凡堂航空公園店、以上五件しか脳に登録されていない。知人の誕生日も片手を折り返すまでもない。
 他にも細かく言えば、『ピリ辛』『うま辛』などの言葉にも弱く、スーパーなどでその言葉を目にすると、ついつい手が出てしまう。『黒コショウ』『粗引き』にも同程度弱いと言える。
 さて、ここまで様々な私の弱点をさらしてきたわけだが、その線引きは結構曖昧だ。虫は嫌いだが全部ダメというわけではなく、カブトムシ等なら(恐らく)大丈夫だ(と思う)。しかし姿形はとても似ているはずなのに、ゴキブリは全然まったくウルトラ・ダメだ。その違いは何か。それは奴等の動きの違いだ。
 二者を地面に並ベたとする。カブトムシはノソノソと歩き始め、ゴキブリはカサカサと這いずり回る。その差は一目瞭然。ちょっと目を離したとしても、鈍足のカブトムシはそう遠くへは行けないが、ゴキブリは瞬く間に居なくなる。それでは困る。ゴキブリを見付けてからゴキジェットを取に行っていたのでは遅いのだ。見付けた瞬間から片時も目を離さず、その姿を常に視界に留めていなくては、スムーズに駆逐は遂行されない。一度居なくなったゴキブリを探してまで退治する人が少ないのは、できれば見たくないのであり、見なかった事にしたいのだと思われる。
 あと見た目の問題で、カブトムシは立派な角が威厳と風格を醸し出している気がするが、ゴキブリは、奴等にははっきり言って申し訳ないが、気持ち悪い。そのフォルムは実に機能的。どこへでも入り込めるような平たく滑らかなボディ。外殻の艶やかな光沢は、油で滑りを良くしているせいだ。長くしなる二本の触覚は感度抜群のセンサーで、規則正しく連携する六本の足で駆ける姿は人間の反応速度を凌駕する。
 こうやってゴキブリの、進化の果てに獲得した素晴らしい能力を、その姿を思い浮かべて書いているだけで相当気持ち悪い。もう止めよう。カブトムシもひっくり返せばそれなりに気持ち悪いが、ひっくり返すまでもなく気持ち悪い奴等には遠く及ばないのだ。
 とにかく、私はゴキブリ(特に黒い大きい奴)を発見したら一目散で待避しますので、誰かやっつけてください。
 ここまで読んだ人は、こう思うかもしれない。「この人はなんて弱い人間なんだ」と。否定はしない。私は弱い人間だ。スキーもうまく滑れず、泳ぎもいまいちで、バッタやゴキブリを見ると一目散で逃げ出し、数字を眺めているといつのまにか眠っている。おまけに辛い食べ物が好物のくせに確実にお腹を壊し、恐い話を夜中突然思い出して眠れなくなる。あと若干の高所恐怖症だ。
 しかしだ。ここでちょっと高所恐怖症に注目していただきたい。これは全国の高所恐怖症の方にも朗報なのだが、逆説的に高所恐怖症の人は『バカ』ではないと言える。それはなぜか。
 昔の偉い人はこんなことを言った。「バカと煙は高いところが好き」だと。つまり高いところが苦手な私は、バカである確率が低いと言えよう。さらに付け加えると、年始めに風邪を二回もひいた事も、その確率を非常に低いものにしてくれる。
 私は弱虫だが、バカである確率は極めて低い。アホである確率は定かではないが。
 最後に、ここまで散々聞かれてもいない弱点をさらしておいてなんだが、ちょっとだけ名誉挽回をしておこうと思う。
 私が泳ぎが不得意である要因の大きなものに、『水の中で目が開けられない』がある。水泳教室の超初級コースなんかに通えば、まずここからスタートしようものだが、当然私はここでリタイヤだ。目薬なんかも反射的に閉じようとするまぶたを指でこじ開けながらさしていた。人には見せられない姿だ。
 私は完全に諦めていた。ところが私の就職したのはメガネ屋さんで、もちろんコンタクトレンズも販売している。「コンタクトを売るからには、自身もコンタクトを入れられなければならない」と先輩も言っていた。確かに理に叶った話なのだ。コンタクトを初めてするお客様には、レンズをお渡しする前に装用練習をしなければならない。出来もしない人がやり方やコツをレクチャーする道理はない。避けては通れない道だった。
 だが、いかんせん乗り気ではなかった。なるべく話題に出さず遠ざけていたのだが、いよいよそうも言っていられなくなった五月某日、ついに私は自力でコンタクトを入れたのだ。普段からコンタクトレンズを使っている人から見れば、全然大した事ではない。しかし私にしてみれば、快挙とも言える出来事なのだ。
 そしてその夜、興奮覚めやらぬ中で湯船に浸かっていた時である。ふと出来るような気がして、湯船の底に手をつき、ゆっくり顔を沈める。そして恐る恐る目を開けてみる。ボンヤリながらも、確かに私の手が見えた。「グァバォア!」思わず勢いで顔を上げ、小さくガッツポーズ。私にとって、その日は歴史的な一日だった。
 まぁ、だから何ってわけでもないが、誰も誉めてくれないので自分で誉めてあげようと思っただけです。俺!偉いぞ!!
 誰しも弱点はある。しかしそれを少しずつクリアしていくのも、すこぶる楽しいもんだし、弱点を弱点たらしめない工夫ができれば、それも魅力となる。私も『水の中で目を開ける』という、他人には小石にしか見えないハードルを人知れず越え、さらに食べられなかったトマトも食べられるようになった。もう一度言う。俺!偉いぞ!!皆さんも何かハードルを乗り越えたら、ちゃんと自分を誉めてあげましょう。誰も誉めてくれなくても、私は誉めてあげます。私を誉めてくれる代わりだけど。
虫
 
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